ILLUSIONからの帰還

雑報 星の航海術

坂口恭平さん(新政府初代首相)主宰のILLUSIONが7月28日、熊本で開催されると聞いた時は、そのメンツが七尾旅人さんにPUNPEES.L.A.C.Kが出るとなれば、これは行くしかないでしょ、というわけで行って来ました。

まず熊本に着いてpavaoでご飯を食べて鋭気を養い(ここは本当にうまいので熊本に行ったらぜひ寄って欲しい)、いそいそとライブ会場へ。歩いて行ったんだけど汗だくになって、やっぱり南国の熊本はめちゃくちゃ暑い。

七尾旅人さんの演奏中に無理にでも入ってくる坂口さん

ライブ開始。最初は坂口さんの漫談を交えた弾き語りで「train train」や「魔子よ、魔子」、少女時代の「gee」などを披露。相変わらずのカッティングに、うめぇなと言うしかない。

次いで七尾旅人さんが「ILLUSIONの雰囲気を盛り下げるからね」と「圏内の歌」「サーカスナイト」などを披露。中でも電気グルーヴの「虹」をギタレレ一本で表現していて、なんというか震災以降、七尾さんの中で何かがあったのか完璧な音を目指している感じがして鳥肌が立った。(この日の「虹」に多少なりとも近いのは、KAIKOOでのライブかな)

明け方になるにつれ元気になる

とにかく後は踊りまくりの朝まで4時。朝まで踊ったのは3年前まで行っていたWIREぶりで、中途、七尾さんから「見覚えある人がキレのある動きをしているなと思っていたら尹さんでしたか」と声をかけられ、齢42でもまだまだヤレるようです。

4時半にILLUSIONも大団円を迎え、僕らはゼロセンターで仮眠を取り、朝6時半からやっている近くの銭湯「城の湯」で湯を浴び、紅蘭亭で円卓料理を堪能。1575円で太平燕に酢排骨、干焼蝦仁
、清作鶏、かた焼きそば、杏仁豆腐が食べられるというから、コストパフォーマンスはめちゃ高い。子供の頃から食べている人が大人になって家族を連れて来ている感じの、店が提供する伝統ではなくて、生きた連続性が感じられていい店だった。

食後に博多へ移動。博多も熊本かそれ以上に暑く、つい夜もクーラーをかけて寝てしまい、そんで風邪をひく。

でも翌日は約束があって、平尾のふらへ微熱を押して行く。
約束というのは、この店に通ううちに、おしゃべりをするようになった女性と会う約束をしていたからで、彼女は昨年、東京から博多へ越してあまり友人がいないよう。長らく専業主婦をしていた彼女は初めてひとり暮らしを、ひとりで生きるということを選択した。二言目には「あ私みたいなおばさんが…」だったのだけれど、最近はあまり口にしなくなって、「この前、九州電力前へのデモに行ってきたんですよ」と、なんかこう端々に積極的な様子が見られて、僕よりひとまわり上くらいの人だけど、なんだか愛しくなってギュッとしたくなってしまった。

彼女を見ていると、社会的に名付けられなかっただけの、手付かずの能力があるのに、それを意味なしとみなされ、また自らも無意味で無能力だと思ってきた様子がうかがえ、ここに来て人生の意味を取り返し始めているように感じて、なんだかその場に立ち会っていると思うと感動する。

博多で知り合ってお茶を飲んだり、メル友になった人はすべて女性でだいたい50代以上で、彼女たちと話していると五味太郎さんの『おしゃべりしていればだいじょうぶ』な空気感で、そんな雰囲気の中で珈琲を飲んだり、ジェラート食べるのなんていい感じでしょう。

福岡城から眺めた花火

夜は大濠公園で花火を見た。40万人という人出だと聞いたけれど、隅田川みたいな激コミになるイベントでもならず、こういう規模感の都市のサイズって余裕があっていいなと改めて思いつつ、今朝の始発の便で東京へ帰ってきた。

空港で朝ごはんを食べながらツィートをチェックしていたら、官邸前デモの中核を担っていた首都圏反原発連合のメンバーと野田首相が会見するとのことで、さっそくそれに対する賛同、非難の声もあるようで、賑やかなことです。

仮定と予見とで主義主張を唱えるこのよくわからないミルフィーユ状の声の重なりに、僕らが現実と思っているほど現実ほどILLUSIONじゃないかと思ったりして、博多で買った舞城王太郎の『SPEEDBOY!』のページをめくったら「誰かの感じる限界が、他の人間に限界を作ることだってあるんじゃないのか?」と書いていて、なるほどそりゃそうだなと思った辺りでバスは吉祥寺について、JRに乗り換えて西荻窪で降りた僕はあまりの暑さに甘いっ子で宇治ミルク金時をかき込んだのだった。