第6号 うかぶLLC共同代表 蛇谷りえ

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1984年大阪生まれ。2012年に「うかぶLCC」を三宅航太郎と共同で設立し、鳥取県東伯郡湯梨浜町にて複合型の滞在スペース「たみ」を開業。その他、県内外での印刷媒体を中心としたデザイン企画および制作、アートやメディアに関するコーディネート、マネジメント業を務める。

【インタビューが始まるまでの少しばかり長い前書き】

鳥取が熱い。
誰に頼まれたわけでもなく、昨年から周囲にそう言い続けている。マツコ・デラックスがMCを務める番組で取り上げられた「鳥取問題」のような、モノや人、情報、お金が都会に比べて「ない」ことからくるギャップにおもしろ味を見出しているのではない。むしろ「ある」ことに驚いていて、それを指して僕は「鳥取が熱い」と言っている。いったい何が「ある」のかについては、本編を読んでほしい。

鳥取を訪れたのは2015年11月下旬のことで、それから1ヶ月あまり暮らした。雨の降らない日がほとんどないのに面食らい、陰鬱な鈍色の空に加えてあまりにひっそり閑とした街に驚いた。日本一人口が少ない県というのもうなずけた。観光客もいるにはいる。がしかし、砂丘と梨と妖怪とコナンを推しても観光消費額は全国最低だそうだ。

キラキラしたショッピングモールは望めない。流行りのスイーツは食べられない。公共交通機関は乏しい。都会の快適さ、速度感から比べたら魅力を見出しにくい。表層をなぞる限り、そういうふうにしか鳥取は見えてこない。

滞在中、「街の記憶」に注目し、リノベーションを行っている建築家やびっくりするくらいうまいベーグルを出すカフェ、美味しいパン屋を営む人たちに出会った。
そこでなんとなくわかってきたのは、デカいお金は回っていないが、ちゃんと生きていけるだけのお金はめぐっていることだ。つまり経済がある。それがあれば死ぬことはないだけの流れが伏水のようにあるようなのだ。

鳥取は東京が象徴するようなビジネスのあり方からは関心を払われていないし、鳥取もそちらを目指したところでどうにもならないことはわかっている。
それは一見すると歯止めのかからない衰退に身を任せているだけにも見える。駅前の空洞化とかシャッター商店街といった報じられ方をし、また実際に目にもするそんな閑散とした景色は、諦観と停滞を象徴しているように見えてしまう。
でも、それは目の凝らし方が足りないだけではないか。そう見える風景は暗渠に蓋するアスファルトみたいなものではないかという気がしてきた。

たとえば、なんでこんなところに?という場所にセクシーで高そうなランジェリーを扱う店があった。店先を通るたびに確認していたが、客が入っているのを見たことはない。
だが店主と話をした人によれば、女性だけでなく、また男性が女性へのプレゼントに買うだけでなく、自らつけるために買いに来る男性にとってのホットスポットになっているらしく、確実に売れている。
わかりやすい活況として目に留まらない活動が確かにある。何のことはない。そういう活動はやり繰りとか暮らしと呼ばれるものだ。政治家は「経世済民」に関心がないようだから、民は勝手に経済活動して暮らすほかないのだと、自然にわかっているような気配がある。

鳥取はおもしろいところだ。このおもしろさは「ブルータス」でも「ことりっぷ」でもたぶん拾えない。といっても僕も鳥取ぜんたいのことはわからない。ただ知り合った人たちは職業名としての仕事ではなく、行為していることそのものが仕事になっていて、つまりは日々の暮らしの中で冒険している。それがすごくかっこいいし、おもしろい。

お仕着せの働き方ではない豊かさがあると気づいたのは、ゲストハウス「たみ」の存在とそれを運営する合同会社「うかぶLLC」のメンバー、蛇谷りえさん、三宅航太郎さんを知ったことが大きい。
今回、ゲストに登場いただく蛇谷さんは元々グラフィックデザインを手がけ、アートプロジェクトの企画に携わっていた。三宅さんは元はアーティスト。ふたりとも、ギャラリーやアクリルボックスの中に収められた作品をつくることに飽きたらず、いまの活動を始めたという。

「たみ」は鳥取駅からさらに電車で1時間ほど離れた松崎駅近くにある。駅前には寂れたとしか見えない土産物屋と「いったい誰が買いに来るだろう」というような商店があるばかりで、山陰初のゲストハウスをなぜこのようなひなびた町につくったのか?と疑問に思った。しかし、その問いは、陸続と各地から旅客がやって来る事実を前にしては愚問だと気づく。

旅人は何に魅せられて「たみ」に来るのか。「たみ」は撮影禁止で取材も受けないため、SNSにはほとんど情報が載っていない。ただ、うかぶLLCの掲げる社としての三つの方針を読むと何となく持ち味が想像できる。

・あたらしい風景を自由に見るための土台であり、舟である
・個人の持つ可能性を拡張することで、社会をいかに生きるか探求する場所である
・留まることなく、常に変化しつづける時間である

これらの方針からわかるのは、僕たちの思い描く「社会」や「仕事」は日々の暮らしの中の味わいや手応えから必ずしもつくり上げてはいないことだ。他人の評価やSNS、ネットで語られているイメージとの照らし合わせで考え、形作ろうとしており、しかも、それをあまり疑わなくなっている。一度たりとも「社会って何?」「働くって何?」と問うたこともないままに、特定の価値観を信じ、お金を稼ぐために生きるとしたら、それは人生に価するのか。

蛇谷さんによれば、「利益を生むよりも循環させること」を念頭に置いているというのだが、それをソーシャルビジネスとか小商いとわざわざ呼ばないままにやっているのがいい。そういう人たちが勝手にニョキニョキと生えている印象を鳥取に持つようになった。
ひょっとしたら鳥取は日本の中で最先端を走っているんじゃないか。
その見立てをもとに、「たみ」に次いで鳥取駅前に出店したばかりのパブとホステルを兼ねた「Y」で蛇谷さんに話を伺うことにした。


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